ほお葉や酢飯の持つ殺菌効果で日持ちがするため、八百津では野や山で仕事をする際のお弁当として造られることが多かったほう葉寿司。食材が乏しくなる冬の保存食としてつくられた「こうじ漬け」は、どうしても不足する冬季のタンパク質を得るという必然性から、野鳥やスルメ、揚げなどが主な材料とされ、ていました。ここにあるものを上手に活用し、長く受け継がれてきた地元の味は、人達の暮らしに、必要とされ、受け入れられてきたものばかり。
八百津の味と、地酒を合わせて、八百津をまるごと楽しみましょう!

こうじ漬け

 こうじ漬けのお話を『しおなみ山の直売所』のやすこさんに聞かせてもらったのは、前日降った雪が残る1月のことでした。
 もともと山村の家庭では、食材が乏しくなる冬を迎えるまえに、身近に得られるこうじを使った保存食がよく作られていたのですが、野菜が少なくなる冬の直売所の商品としても店頭に並ぶようになったというわけです。
 一般的に家庭で漬けるといえば大根やかぶらなどの根菜たちを想像するのですが、ここ山村では、どうしても不足する冬季のタンパク源を得るという必然性から、野鳥(昔はツグミが代表であったが現在では禁猟のため、うずらが使われる)やスルメ、揚げなどが主なこうじ漬けの材料です。
 この山村の大事なたんぱく源であるこうじ漬け、とても美味しいんです。

「こうじは、ほうぼうで売ってるんです。」山村でこうじはずっと昔から身近で手に入りやすい材料であったようで、やすこさんによると、むかしは晩秋の時期になると近所でこうじを作って売る方が多くあったようです。
 「あのね、こうじ漬けにすると、持つんです。」かつて冷蔵庫のない時代にどこの家もあった漬物部屋で陶製の壺に保存されることで、11月から漬けはじめられたものが、春まで食べることができたそうです。
 こうじ漬けでいちばんポピュラーなのはスルメや揚げ、うずら。ほかにもカツオや塩鮭、塩鯖、鶏肉などさまざまな食材が漬けられるようで、なかでもスルメは、「むかし、秋になると必ず行商の人がかごを背負って売りに来て、それを親が買ってつくってくれて、子供のころからそれを食べてた。」と、やすこさん。
 ときにお金を支払うのではなく、畑で収獲してためておいた小豆と交換してスルメを買うなどということもあったそうです。

幻のこうじ漬け

八百津のおいしいものについて質問すると必ず挙がるのが、ヘボとツグミ。
なかでもツグミの話題になると、出会った方すべてとても嬉しそうな顔でその記憶を満足げに語ってくれます。
 そのツグミ、今日では食用にすることも、その狩猟用のかすみ網の使用も法律で禁じられています。(「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」で使用禁止猟具に指定)昭和40年代にはツグミ料理は姿を消すのですが、ここで少しだけ人々に満面の笑みをもたらしている味にまつわるお話を紹介しておきます。
 「こうじ漬けで一番美味しいのはツグミ。」食体験のある人からは必ずそう答えが返ってきます。山村ではそもそも「こうじ漬け=ツグミのこうじ漬け」と言い切ってよさそうです。
秋に渡ってくるツグミをかすみ網猟でたくさん手に入れたら、ひとり一羽を焼いて食べたあと全部どんと漬け込んで、お正月料理として必ず食べ、来客へはおもてなしとして出し、季節の行事の際にも使われ、春まで保存して食べていたとのことです。

 また、潮南地区には、名古屋や可児、美濃加茂、多治見などから会社や各種団体の忘年会・新年会用途で団体客を集める料理屋さんがあったそうで、そこでの看板はツグミをはじめとする野鳥料理、猪鍋、松茸ご飯を組み合わせたコース料理であったそうです。
 そんなことから地元の人の中には遠く越前まで泊まり込みで猟に行き、料理屋さんへ卸して収入を得る人もいたようです。

 やがてツグミが禁猟になり、松茸も希少で手に入りづらく高価になってきたことや、手軽に多人数で利用できる居酒屋も増えたことから、バスで送迎するくらい多かったお客さんの足も途絶え、ツグミの味も記憶の中だけのものとなったのです。

 いま、ツグミに代わって漬けられている鳥は、うずらや鶏。しおなみ山の直売所には、正月に欠かせない味だと言ってうずらのこうじ漬けを買い求めるお客さんが時おりあるそうです。